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札幌家庭裁判所 平成6年(少ハ)3号 決定

本人 K・J(昭和48.5.16生)

主文

本人を平成6年5月12日まで中等少年院に継続して収容する。

(申請の要旨)

本人は、平成5年4月13日当裁判所において、威力業務妨害保護事件により中等少年院送致の決定を受けて帯広少年院に収容され、平成6年4月12日で収容期間が満了する(少年院法11条1項但し書き)。本人は、積極的に自己の問題に関わろうとする基本的な姿勢が十分ではなく、周囲の状況を意識しながら行動する傾向が顕著なうえ、懲戒処分を受けたため中間期教育予定期間が現在までに2か月半遅滞し、問題性の改善は遅れており、出院準備課程に編入できないでいる。本人のこれまでの保護経過や院内における処遇経過から、今後は残された問題点の改善を図る必要があり、さらに、出院後の生活の安定を確保するために、一定の期間保護観察により指導監督する必要があり、収容期限の満了日の翌日をもって本人を退院させることは相当でない。そこで、適切な出院準備教育及び保護観察期間の確保のために、平成6年4月13日から同年8月28日までの4.5か月間の収容継続を申請する。

(裁判所の判断)

1  本件記録、調査及び審判の結果によれば、次の各事実が認められる。

(1)  本人は、中学時の両親離婚のため保護環境が低下したのを契機に不良感染が本格化し、基本的には親に依存しつつ、気儘で自分勝手な生活を続け、暴走族、暴力団などの不良団体との親和性を強めていき、その価値観や態度を採り入れていったあげく、兄貴分の暴力団員からの指示に従って、他の暴力団員と一緒に多数の威力を用いて、パチンコ店の業務を妨害し、平成5年4月13日、当庁において、中等少年院送致の言渡しを受け、帯広少年院に収容されることになった。

(2)  帯広少年院においては、暴力団に加入していたという本人の経歴や自分勝手で、自己顕示欲が強いうえ、楽をして思いどおりのことをしたがったり、場当たり的に嘘をついたりごまかしたりしがちな性格上の問題点などから、個人別教育目標を〈1〉暴走族、暴力団から離脱させ、健全な社会生活の在り方を理解させる、〈2〉社会の規則や決まりを理解し、遵守する態度を養わせる、〈3〉勤労意欲を高め、辛抱強く働く習慣を身に付けさせる、と設定して処遇に当たった。

(3)  本人は、入所当初、身に付けた暴力団的な価値観や態度が抜けきらないうえ、何をするために少年院に入ることになったかも考えず、社会にいるときの延長のような気持ちでいい加減な気持ちで院内教育に臨んだため、不良顕示的な行動やだらしない行動をとったり、厳しい規律や指導に反発したりを繰り返し、なかなか内省が深まらなかった。

本人は、同年5月15日付けで、中間期教育課程に編入されたが、院内教育に臨む姿勢が改まらず、社会での知合いの前で見栄や虚勢を張ったり、馴れ合い的な行動に出たり、だらしない生活態度に終始したりで注意を受けることも多かったうえ、不良顕示的な態度が高じて、日頃から仲の悪かった他生と口論の末、暴言を吐き、同年7月14日、「暴言、口論」の規律違反により、謹慎7日の懲戒処分を受け、そのことでさらに悪感情を募らせ、その生徒に仕返しをする趣旨の文書を他生に回し、仲の良い者と一緒になって気に入らない者に圧力を掛けたとも評価できる暴力団的な振舞いに出たため、同年8月11日、「不正通信」の親律違反により、謹慎7日の懲戒処分を受けた。しかし、その後も、職員の注意に対し、自分だけが注意されているような気がして不貞腐れた態度をとったり、職員の指示の不統一や言葉尻を捉えて不満を口にし、指導を素直に受け止めて、自らの生活態度や言動を改めていくことがなかなかできなかったため、結局、中間期教育課程の修了が、2が月半も遅れることになった。そこで、少年院では、面接において、本人に対し、良い点、悪い点、さらには、具体的な生活の仕方などを明示し、日々目標をもって生活をするように指導してきたところ、次第に、見栄や虚勢を張った面が沈静化し、自らの行動を自制しようという姿勢が見られるようになり、規律違反が見られなくなった。

職業補導や役割活動については、気分のむらや感情に左右されがちなことから、一貫性や持続性の乏しさが見られたものの、作業には熱心に取り組み、ガス溶接技能講習や3トン未満車両系建設機械(整地・運搬等)オペレータ特別教育を修了し、危険物取扱丙種合格などの資格を取得し、途中で投げ出すことなく、熱心に取り組めるようになってきた。

しかし、未だに、自分の問題を直視せずに、その改善のために努力することを安易に回避する傾向があったうえ、不良集団との関係を断つ決意も十分とはいえず、全体的に課題への取組みの姿勢が表面的かつ皮相的なものに止まったため、帯広少年院長は、平成6年2月14日、釧路少年鑑別所の再鑑別結果(同月2日付け)も踏まえ、当庁に、収容継続の請求に及んだ。

(4)  しかし、これまでの職員の周到な指導が、徐々に本人の内面にも効果を及ぼすようになり、本人は、少年院がどういうところなのかがわかるようになるとともに、自分の悪いところも気が付くようになり、職員の指導と少年の改善の意欲が多少なりとも噛み合うようになり、変に意気がったり恰好をつけたりすることなく、落ち着いた気持ちで生活ができるようになり、良好な状態が持続できるようになってきた。また、寮委員としてリーダー的役割を果たしたり、資格の取得などの具体的な目標に向けて頑張れるようにもなってきたため、『学習態度』やこれまで苦手にしてきた『基本的生活態度』でもB評価をもらうようになり、平成6年3月1日付けで、総合Bの評価を受けて、1級の上に進級し、出院準備教育課程に編入されることになり、この調子を維持することができれば、さらに仮退院までの期間が短縮できる見込みが濃厚になってきた。

しかし、本人の抱える『我慢ができない』、『虚勢を張る』『人の言うことを素直に聞けない』などの問題点は、未だに、完全に払拭されたわけではなく、収容期間が満了する同年4月12日以降も、少なくても1か月程度は、施設内での教育で矯正につとめるとともに、施設内で身に付けたことを社会で活用するための準備をしておく必要がある。

(5)  本人は、出院後、建材の運搬、販売を営む実父の元に帰り、実父、継母(以下、単に「父」、「母」という。)と同居しながら、父の仕事を手伝う予定である。本人は、家業を手伝いながら、できるだけ早く運転免許を取得し、家業に協力する気持ちをもっており、現在受講している通信教育の自動車整備の勉強も、父の会社のダンプなどの車の整備に活かしたいと考えている。また、本人は、自分の悪いところを直して、きちんと仕事していけるようになることが最も必要だから、その点について全力を尽くし、少年院入院時まで同棲してた彼女とのことなどは、それができるようになってから、両親と相談したいと考えている。

父母も、家庭と仕事の両面でこれからの本人を支えていきたいと考えている。ただ、父は、平成6年からこれまでの仕事に加えて古タイヤ廃棄の仕事も始めることになっており、この仕事が4、5月の時期に最も忙しいこともあり、できるだけ早期に施設から本人が出て来て、父の仕事を手伝うことを希望している。

これまで、本人の父母、特に父親は、跡継ぎとして本人に期待するところが大きく、物質的、精神的に甘やかし、本人に好き放題の生活態度を許してしまい、他方で、期待と裏表の関係にあるプレッシやーを本人に強く掛けることにもなってしまった。また、父親は、人の話を素直に聞くのが苦手なタイプで、本人が自分の意見を父親に伝えるのが苦手なタイプであることとあいまって、親子の意志疎通が円滑に行われ難いうえ、前件当時、父母が、本人が表面的に家庭に依存しているのに安心し、本人の状況についての認識が甘くなり、本人が暴力団へ接近していたのを見逃してしまったなどの経緯もあり、本人の保護環境について不安がないわけではない。しかし、本人の父母は、前件までの養育態度を反省し、頻繁な面会や手紙のやりとりからも窺われるように、本人の状況や気持ちの把握につとめるようになっているし、本人が、話しやすいような状況をつくる努力をすることを約束している。母は、血の繁がりこそないものの、少年に理解を示しており(少年も、親和性を抱いている。)、自分の気持ちをうまく表現できない父と本人の間を有効に和らげることができる貴重な存在であるが、今後は、少年の言い分を吟味したうえ、父親にとりなしてやったり、少年をたしなめたりするつもりでおり、父子関係の一層の円滑化の原動力ともなることが期待できる。また、父母は、本人を引き受けるに当たって、養ってやるという姿勢をとるのではなく、普通の親子関係の構築に心がけ、さらに、必要に応じて、少年に頼る態度をとるなどして、少年の自覚をそれとなく促すことなども考えており、前件当時と比べれば、少年の保護環境は格段に向上しているということができる。

(6)  本人は、本件の収容継続の請求について、できれば誕生日の5月16日までに社会に出たいという希望はあるが、期間が延びたことについては自分にも責任があるし、まだ直さなければならない問題点もあるから、やむを得ないと考え、どのような結果になっても、指導には一生懸命従い、社会に出てからは、少年院で学んだことを活かして、頑張っていこうと決意している。ただ、少年院に入ったこと自体、父母に迷惑を掛けているのに、収容期間がさらに長く廷びることになって父母に申し訳ない気持ちが強いうえ、父が本人を引き受けてくれるかどうかについても、心配している。本人の父母は、収容期間が延びないで欲しいという気持ちが強いが、収容継続が必要ということになれば、その結果は受け容れるつもりであり、本人が少年院から出てくるのが何時になったとしても、温かく本人を迎えたいと考えている。なお、父は、収容継続の請求について、当初頑なともいえる態度を示しているが、これは本人及びその父母の、公的規制、とくに、保護観察に対する不信や不満によるところが大きく、今後も、本人、父母が保護観察の指導を受け入れることができる状態に至るには、かなりの期間を要することが予想されるばかりか、場合によっては、再び父親との間で軋轢が生じて、本人に悪い影響を及ぼすことがないとはいえない状態にある。

2  以上の諸事実によれば、問題点の改善が軌道に乗り始めたばかりの本件請求の当時はもちろん、現在に至っても、本人の抱える問題点は未だ十分に改善されたということはできず、現時点で社会復帰させるには、再犯の不安が残っていることは否定できず、収容期間満了後直ちに本人を退院させることには疑問が残り、出院に先立ってなお本人に対する出院準備教育が必要であるということができる。

しかし、本件請求後の自覚が高まってからの本人の成長には目を見張るものがあり、その更生意欲も相当高まっているうえ、出院後、保護者のもとで帰住、稼働することに確定し、その家庭環境や保護者の指導意欲・能力は著しく向上しており、また、父親の仕事に人手が必要な時期に出院できれば、円滑に家庭に溶け込むことができ、本人も自信をつけることができると期待でき、もうすぐ21歳という本人の高い年齢も考慮すれば、本人に対する出院準備教育は、できるだけ短期間で実施して、本人の早期出院を図ることが、本人の更生意欲を一層高め、本人の円滑な社会復帰に役立つものと考える。また、本人及び保護者の保護観察に対する根強い不信なども加えて考慮すると、出院準備教育の修了後は、仮退院として保護観察を付すべき必要性はそれほど高くないばかりか、却って、そのことが円滑な社会復帰の妨げになるおそれもないわけではなく、また、確定的な本退院とすることで、本人の一層の自覚を促すことができ、その社会復帰をより円滑に実現させるものであると期待することができる。

3  本人の出院準備教育には、前述のとおり、少なくても収容期間満了後もなお1か月の期間が必要であるから、本人に対する収容継続の期間は、平成6年4月13日から同年5月12日までと定めるのが相当である。

4  よって、少年院法11条4項、少年審判規則55条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 北川和郎)

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